口から食べる幸せを守る家族会
Photo by Jeremy Bishop on Unsplash
ホーム / 嚥下障害の父が食べられるようになるまで

嚥下障害の父が食べられるようになるまで

食べることを恐れてはいけない。食べるんだという強い気持ちで食べること(訓練)を継続していけば、食べられるようになる

食べられなくなったときの様子

父はインフルエンザと下半身麻痺で入院し、その後肺炎になりました。転院して肺炎が治り始めた頃、食事再開に向けて嚥下内視鏡(VE)検査を受けたところ、担当医から「嚥下の状態がとても悪い。こんなにひどいのはめったにない。口から十分な栄養を摂ることは恐らくもう難しいだろう。」と言われ、胃ろうを勧められました。ほんの2週間程前には自宅で普通に食事していたのに、あまりに急で驚きました。痩せ細った父を目の前にすると、胃ろうを選択するしかありませんでした。
父は、過去に小さな脳梗塞を数回経験しているので、今回歩けなくなったのも飲み込めなくなったのも私は脳梗塞のせいだと思いましたが、肺炎になったためにすぐに調べることが出来ず、結局、原因はよく分からないままでした。担当医からは「入院するとガクッと老化が進んでしまうことはよくありますから」と飲み込めない原因は老化のようにも言われました。
私は、父は訓練すれば食べられるのではないかと思いました。胃ろうを体力回復の手段と捉え、まずは胃ろうで栄養をとって体力を回復させて、その後、嚥下機能回復に向けて訓練していこうと考えました。

父は、肺炎の熱が下がり始めると食欲が出てきて、連日、食べ物を買ってこいと言うようになりました。食べることを先送りする私に腹を立て、「おまえは親を殺す気か」などと言うこともありました。
入院中に認知症が進行したこともあり、退院後は介護施設に入りましたが、その後も施設のスタッフや私に「弁当を買ってきてくれ」とか「おいしいものを食べに行こう」などと言い続け、そのうち「この食べない生活、もうやめてくれないか。俺は死んでもいいから食べたいんだ」と言うようになりました。
また、「食べ物を買いに行く」と言って施設の外に出ようとしてスタッフに止められることが何度もありました。あるとき、父は、外に出ようとして止められたことにひどく腹を立て、それが発端で、やむなく強い精神安定剤を投与されました。私が面会に行くと、父はその副作用でふらつきがひどくて歩けなくなっており、また呂律が回らなくなっていました。そんな父を見て、私は、このまま食べずにいたら父の心が壊れてしまいそうな気がして、なんとしても早く食べられるようにしてあげようと強く思いました。

食べられるようになるための苦労

病院では、当初は言語聴覚士が対応してくれましたが、歩行等の訓練を父が拒否し続けたため、2週間位で、嚥下訓練を含む全てのリハビリを終了することになってしまいました。
入院中、複数の看護師から「歩けるようになったからと言って嚥下も回復するわけではない。嚥下の回復には時間がかかるので、歩行等の回復とは別物と考えたほうが良い」と言われました。実際、入院中に歩けるようにはなりましたが、食べられるようにはなりませんでした。ただ、歩行訓練は看護師さんが毎日手引きで行ってくれたのに対し、嚥下訓練は私が用意した「吹き戻し」を時々やるだけなので、回復に差が出るのは当然だと思いました。
退院後に入った介護施設でも、嚥下の回復には時間がかかると言われました。私は、食べない時間を長く過ごすと回復する可能性が低くなるのでは、と思いましたが、私の意見に同調してくれる人はいませんでした。
介護施設では吹き戻しの他は歌や話すことをリハビリにしている程度でした。VE検査は2回行いましたが、やはり飲み込めませんでした。
このまま、今までと同様に「歌や吹き戻しによるリハビリ」→「VE検査」を繰り返しても父は食べられるようにはならないような気がして、思い悩みました。施設の担当者に相談したところ、「訪問看護ステーションから言語聴覚士に来てもらうことは可能だが、言語聴覚士の人数はとても少ないのでなかなか空きがない。また、来てもらう場合は自費になるのでかなりの高額になる」と言われました。どうしたらよいか分からなくなり、途方にくれました。
今まで、2人の医師にVE検査をしていただきましたが、いずれも医師からは嚥下の回復に向けた訓練方法やアドバイス等の話は一切ありませんでした。「飲み込めていないから経口摂取は難しいですね。以上。」といった感じです。言語聴覚士等の嚥下訓練を担う人とVE検査を行う医師が協力する体制にはなっていないように感じました。
この経験からすると、嚥下訓練はVE検査を行う医師に直接依頼したほうが良いだろうと考え、例えば言語聴覚士のいる歯科医院など、嚥下訓練に前向きな医師を自分で探すことにしました。

父は、介護施設に慣れてくると、もともときれい好きだったこともあり、自分でまめに歯磨きをするようになりました。また、歌や吹き戻しの効果で、痰を吐きだす力が強くなってきました。こうなってくると、私は、仮に飲み込みに失敗して誤嚥したとしても肺炎にならないのでは、と思うようになりました。
今まで、病院でも施設でも、何かと「誤嚥するリスクがあるから食べないほうがいい」と言われましたが、そもそも誤嚥=肺炎ではないはずで、「食べさせない」ことよりも、口腔ケアや吐き出す力を身につけることのほうが重要なのでは、と思いました。
父は時々唾液を誤嚥していました。少し荒っぽい考え方ですが、どうせ唾液を誤嚥しているのだから、「食べたい」父にとって「食べて誤嚥する」のは許容範囲というか五十歩百歩のような気がして、果たして「食べさせない」ことは本当に必要な措置なのだろうかと疑問に思うようになりました。

そんなとき、何気にテレビを見ていると「口から食べる幸せを守る会」が紹介されていました。これだ!と思い、すぐさま連絡して、大谷先生に来ていただくことになりました。

食べられるようになって感じたこと

大谷先生(KTSM実技認定者)にお越しいただき、食べる訓練を始めたところ、なんとわずか1ヶ月程度で父は食べられるようになりました。約6か月間、父は何も飲み込めなかったのに、たった1ヶ月の訓練で、自分でスプーンを持って「旨い」と言いながら食べる父の姿を見ることができるようになったのです。
「食べられないから食べさせない」のではなく、「食べられないから食べる」訓練が必要なんだと痛感しました。
食べられるようになってからの父は、日に日に顔色が良くなり、表情も穏やかになりました。以前は、周囲の人に対して少し怒りっぽいところがありましたが、最近はあまり怒らなくなりました。
先日、2ヶ月ぶりにお会いした知人が父を見て「なんか雰囲気が変わった・・・」と言い、食べられるようになったことを知らせると「こんなに変わるんだ・・・」と感動して涙ぐんでいました。
父は、「食べることを恐れてはいけない。食べるんだという強い気持ちで食べること(訓練)を継続していけば、食べられるようになる」と言っています。食べることができない間はこんなこともできないのかと情けない気持ちになっていたが、食べられるようになって自信を持てるようになったそうです。
もし、あのまま食べることができずにいたら、父はそのうち生きる自信を失い、ふさぎ込んで寝たきり状態になってしまっていたかもしれません。
食べることで心の安定を取り戻し、人間味のある暖かい父を取り戻すことが出来ました。食べることの大切さを改めて強く感じました。

先日、父はムース食のおかず3品とおかゆにトライしました。大谷先生に食べられるかどうかをみていただくだけだったのに、父はずっと食べ続け、とうとう全てを完食しました。「こういうものが食べたかったんだ。ずーっとこういう食事を待っていたんだ。」と言い、「んー、やっぱり満足感が大きい。充たされた気持ちになる。」とうれしそうに話していました。来週からは、お昼は経管栄養なしで口からの食事になる予定です。

父のように、食べたいのに食べられない人は大勢いるのではないかと思います。
恐らく父も、もし食べる訓練をしなかったら、今でも食べることはできないままだったことでしょう。
私は、偶然に食べる訓練をしてくれる先生を知ることができ、また偶然に近くに来ていただける先生がいらっしゃったのでお願いすることができましたが、私のように偶然などではなく、誰もが同じ機会を得られるようになってほしいと思います。そして、一人でも多くの人が父と同じ喜びを味わえるようになることを心から願っています。

KTSM実技認定者へのお問い合わせはこちらの相談窓口からお問い合わせください。

あわせて読みたい

KTSM実技認定者マップ

アノニマス

家族会員

10コメント

  • 母は92歳要介護3で施設に入居していましたが脳梗塞で嚥下障害になり口から食べる事、飲み込む事が出来ません。手足の麻痺もなく、車椅子から降りて手を添えて歩く事も出来ます。点滴をして一週間後、担当飲み込む先生からこれ以上良くなる事はありませんと断言され老人療養型病院に転院を促されました。今、コメントを見させていただいて母にも希望があるのではと思いました。点滴だけで2週間になりますが昨日も口内ケアのスポンジみたいのを食物と思ったのか私の手を取って口に運ぼうとしていました。こちらのコメントを見させていただいて大谷先生に母も診ていただいたら口から食べれるようになるのではと思いました。転院したら末梢点滴、中心静脈栄養、経管栄養を選択しなければなりません。正直、選択肢がなくて辛い状況に直面しています。

    • 私の父も脳梗塞による嚥下障害で発症2日目で中心静脈栄養となり、療養型病院を勧められました。中心静脈栄養では入所できる所が限られます。医師に「誤嚥性肺炎を起こす可能性がありますが本当に良いのですね」と言われましたが、経鼻経管栄養に切り替えました。何が最善なのかわからないまま選択を迫られる辛さは痛いほどわかります。

      さて、口から食べる幸せを守る会の相談窓口からすでにご相談はお済みでしょうか。医師、看護師、管理栄養士など多職種で構成された世話人の皆様からアドバイスをいただけます。私も相談で救われた一人です。

      相談によりお母さまの症状が良い方向に進んでいくことを心より祈っております。

  • 今脳梗塞で入院してます。流動食を鼻から入れている状態で、病院ではタンが吐き出せないから…と、鼻のチューブが取れない状態なのですが、2回の流動食を3回にすると、吐いてしまうという状態になってしまうのです。また胆汁なのか、胃液なのかわからないけど、鼻のチューブから逆流してしまうようです。検査をしても胃腸に問題は無く、なぜ吐いてしまうのか?原因がわからない状態なのですが、嚥下障害の場合にそういったケースが多いのか?わからないでいます。もし原因がわかれば教えていただきたいです。

    • ご家族の苦しみを少しでも軽減してあげたいというお気持ちに胸が詰まる思いです。ご記入の症状は嚥下障害に起因するものかどうかは口から食べる幸せを守る会の相談窓口から直接ご相談されることをお勧めいたします。医療従事者で構成される世話人のみなさまのアドバイスを受けることができます。しかしながら実際に症状を診て判断することができないため、現在入院中の病院以上のアドバイスは難しいかもしれません。少しでも役に立つアドバイスにつながるよう、以下のような詳しい情報を用意して相談されるとことを強くお勧めします。
      年齢、性別、既往歴、入院に至った経緯、病院名、入院日数、医師/看護師のコメントなど思い出せる限りすべての情報。
      相談によりお母さまの症状が良い方向に進んでいくことを心より祈っております。

  • ご相談があります。
    母が半年ほど前から中心静脈栄養になってしまいました。
    医師にも昨日回復は難しいと言われております。
    今は高カロリーのゼリーを看護師の元食べております。なんとか点滴を外したいです。
    嚥下訓練のできる強い方こちらでは大谷さんと出ていますが。
    相談したいです。

    • 私の父も脳梗塞による嚥下障害で発症2日目で中心静脈栄養となりました。食べる訓練がしやすいと言われ訳も分からず中心静脈を選択しました。しかしながら、中心静脈栄養時には食べる訓練は一切ありませんでした。
      お母様はゼリーを食べる訓練を受けていらっしゃるとのことなので食べる力は十分にあると思われます。
      ご相談の件ですが、口から食べる幸せを守る会の相談窓口からご相談いただけます。医療従事者で構成される世話人のみなさまのアドバイスを受けることができます。
      少しでも役に立つアドバイスにつながるよう、以下のような詳しい情報を用意して相談されるとことをお勧めします。
      年齢、性別、既往歴、入院に至った経緯、病院名、入院日数、医師/看護師のコメント、退院後の行き先(施設、在宅)、介護に携わる介護者自身の情報。

      家族会員の必死な努力で自身のお母様の食べる力を取り戻した奇跡のような以下のような経験談もありますのでお時間のあるときにご一読ください。
      母の口から食べる幸せを守り続ける

      奇跡と書きましたが、実際は奇跡ではありません。決してあきらめない強い気持ちと努力の積み重ねによるものです。
      相談によりお母さまの症状が良い方向に進んでいくことを心より祈っております。

  • 現在父は77才です。4年前に脳梗塞。パーキンソン病を発症し、1ヶ月ほど前に高熱が出て、それから鼻に管を入れています。食べ物を飲み込めず、このままでは、食べることも出来ず、生涯を終えてしまうかもしれません。
    なんとかならないでしょうか。

    • 大切なご家族が突然、食べられなくなってしまったとのこと、私も経験があるだけに苦しいお気持ちが多少ながら理解できます。このサイトは口から食べることが困難もしくは、充分な食べる支援をうけられなかった当事者と家族で構成されています。医療従事者ではないため、適切なアドバイスをするまでにはいたりませんが、食べることについて死に物狂いで戦っている会員が行っていることでしたらご案内できます。以下の情報が少しでもお役に立てれば幸いです。

      【必読書と必読経験談】

      以下は必読書と必読経験談です。
      「口から食べる幸せを守る包括的スキル」をお持ちでない場合はお早めにご用意されることをお勧めします。
      口から食べる力を取り戻す方法、リハビリ方法などが詳しく、実践的に書かれています。医療職が読む本なので難しく感じるかもしれません。知識は力となります。家族の力で大切な家族の食べる力を取り戻すことに成功した会員は皆これを熟読し、実践しています。
      口から食べる幸せを守る包括的スキル
      家族を守れるのは家族しかいない
      母の口から食べる幸せを守り続ける

      【食事介助技術の習得】

      大切な家族の食べる力を取り戻すためには、自分自身が食事介助技術を身に着ける必要があります。以下はKTSM実技セミナー、食事サポーター講座の予定一覧です。
      KTSM実技セミナー、食事サポーター講座のお知らせ

      病院で見離された胃ろうの父が3週間で自力摂取できるようになる

      【KTSM実技認定者に依頼】

      以下は食べる力を取り戻す摂食技術を磨いた医療職に与えられるKTSM実技認定士のマップです。本当の食べさせるプロフェッショナルです。しかしながら、現在の医療制度に阻まれ、KTSM実技認定士に診てもらうことは非常に難しいです。
      病院や老健のような病院に準ずる施設に入院中の場合はほぼ不可能です。また訪問看護、訪問診療の場合でも保健が効くのはKTSM実技認定士の所属先から16km圏内と限られています。幸運にもKTSM実技認定士の所属先から16km圏内の方、またはどんなことをしてもKTSM実技認定士に診てもらいたいという方は相談窓口よりご依頼ください。
      KTSM実技認定者マップ

      決してあきらめない強い心で戦い、KTSM実技認定士に診てもらうことで大切な家族の食べる力を取り戻した経験談を最後に紹介します。
      病院にお任せでは大事な家族は救えない。知識や情報を集め、行動していくことが大事

    • 87歳の父は、パーキンソン病を長年患っており、今年3月に頸部のリンパ節に膿がたまり高熱が出て救急搬送→緊急手術→集中治療を経て、リハビリのため転院。そこで嚥下力が著しく低下していると言われ、やむなく胃ろうの処置を受けました。
      在宅介護の限界も感じていたので泣く泣く介護施設に入所させたのですが、新しい主治医に、なんとかもう一度口から食べる事はできないのか診断してほしいと懇願しました。
      ほどなく言語聴覚士による訓練が始まり、ほぼ不可能と言われていた予想をくつがえし、3ヶ月弱で3食とも普通食が食べられるようになりました。家族全員、嬉しくて泣きました。
      げっそり痩せていた顔もふっくらとなり、現在施設では色んな事に挑戦し、充実した毎日を送れるようになりました。
      パーキンソン病という難病であっても、胃ろうから経口摂食に戻れる可能性がある事を知って頂き、どうか希望を失わないで頂きたいと、強く願います。

  • お父様、食べられるようになって良かったですね。やはり、口からシッカリ食べたいですよね。私の父も7月に日課のウォーキングに行き転んで肺炎になり嚥下機能が一気に落ちてしまい。どんなに検査しても飲み込むと食道に全てが行かず今ではペースト食です。しかし、ペースト食でも飲み込みが上手く行ってないと言われてます。読ませて頂いて、私の父も、また復活出来ないかと考えますが…どうなのか…

最近の投稿

ログイン

フォローする