回復期病院に入院して6週間後、食べる訓練がしやすいからと胃ろうを勧められました。同時に言語聴覚士に「次の施設は言語聴覚士がいるところでゆっくり摂食訓練してください」と言われました。脳梗塞による嚥下障害の場合、1か月ほどで回復の見込みがなければ胃ろうを勧められるのは知っていました。しかし、問題が2つありました。
- 食べる訓練を充分に行っていないこと。父の状態は安定しており、食べる訓練を妨げるものは何もないこと。
- 急性期病院で食べる訓練がしやすいからと家族が選んだ中心静脈栄養の留置手術後、父が昏睡状態に陥り、胃ろうの造設手術でも同じことが起きるのではという不安があること。
家族内の意見は割れ、相談できる人はいない、病院内の地域連携室は頼りにならない。何が最善なのか必死に検索する日々が続きました。
結局、自分では結論を出せませんでした。最後の手段に残しておいた「口から食べる幸せを守る会」に相談し、回答によって結論を出そうと決めました。それが以下の内容です。
NPO法人口から食べる幸せを守る会 摂食嚥下に関する相談窓口
本人の年齢 76
身長 164
現在の体重 57.3
病名 脳梗塞
食べていない期間 2ヶ月
発熱の有無 なし
痰の有無 なし
義歯の有無 あり
言葉の理解 言葉の理解ができる・話すことができる
活動のレベル 車いすに乗れる
麻痺の有無 左麻痺
栄養摂取方法 経鼻経管栄養
本人の食べる意思 食べたいと言っている
主治医からどのような説明を受け、現在の状況になりましたか?
父が心原性脳梗塞発症より絶食が約2ヶ月続いたため、何とか口から食べる方法がないものかと探している時に「口から食べる幸せをサポートする包括的スキル」に出会いました。KTチャートを活用し、父の改善状態を見守ってきましたが、先日主治医(回復期病院)から胃ろうを勧められ、衝撃を受け動揺しております。
「胃ろうは欧米では当たり前」「胃ろうにするならできるだけ早い方が良い」「嚥下訓練もしやすい」と説明を受けました。
しかしながら、急性期病院でも同じような話がありました。「口から食べる訓練がしやすいのは経鼻より中心静脈栄養」と説明され許諾しましたが摂食訓練は行われませんでした。回復期病院に転院するものと思っていた矢先、医師から療養病院を勧められました。良かれと選んだ中心静脈栄養のために回復期病院に入れなくなった己の無知を呪いました。
主治医に「経鼻に変えて誤嚥性肺炎が起きても構わない。どうか回復期病院に行かせてください」と頼み込み、入院7週間後に現在のS病院(名古屋)に転院しました。こうした経緯から安易に胃ろうにしてしまうことに抵抗があります。
胃ろうの判断の元となった嚥下造影検査の前々日に誤嚥性肺炎ではありませんが38℃の熱が出ました。微熱が残る中での検査で角度30度は嚥下可能だが60度、90度では誤嚥リスクがあると主治医から胃ろうを勧められました。
回復期病院に入院したらすぐに摂食訓練が始まるものと思っていたのですが、絶食が入院後約1か月続き、嚥下造影検査は摂食訓練を始めて良いか判断するために行うと説明を受けました。
父は左片麻痺で要介護5ですが、食べる意欲は強く、発症前は民謡踊りの講師として各地に指導に行っておりましたので76歳にしては頑強で健康です。独居で身の回りのことはすべて自分でこなしていました。
現在は時間のみ見当識障害があり、ぼーとしているように見える注意障害のような前頭葉症状が見られますが、ゆっくり大声で話せば聞き取りと会話も問題ありません。左半側空間無視の症状が見られるためか理学・作業リハビリの改善が遅々として進まない状況です。
面談時、担当言語聴覚士には「次の施設は言語聴覚士がいるところでゆっくり摂食訓練してください」「施設によっては家族に摂食訓練を認めている」と言われました。少しでもリハビリが継続できるよう次の施設は老健を検討しております。老健は経鼻が取れなければ入所が非常に難しいと聞いています。
主治医と言語聴覚士は経鼻のままだと老健には入れないことを知らなかったため老健の受け入れ状況を説明し、 「老健のリハビリ単位数は現在の1日9単位よりもはるかに少なく、言語聴覚士がいる老健も多くはありません。毎日1時間も言語リハビリで接食訓練できるこの病院で経鼻が取れるようになるまで指導してほしい」とお願いしました。
理学療法士から父は「改善が見られないので6月からリハビリは現在の1日3時間から1~2時間になる」「7月半ばには退院するように」と言われています。
私は横浜在住の自営業で毎週3~4日名古屋に滞在し、父を励まし見守っています。自宅兼事務所で手狭なため在宅介護ができません。兄妹も同様に在宅介護ができない状態です。
退院が迫ってきており、胃ろうを選択すべきなのか、口から食べることを重視する施設は名古屋にあるのかをお聞きしたくてこの度問い合わせした次第です。
父のKTバランスチャート
赤線4/9(入院日)、緑線4/30、青線5/28
相談内容(アドバイスがほしい、転院先を探しているなど)
- 胃ろう
もし退院までに経鼻が取れなければ老健に入るために胃ろうはやむを得ないと考えております。胃ろうは1週間の入院と説明を受けております。胃ろうのために貴重な1週間のリハビリ期間を失うことになります。それでも主治医の言う通りできるだけ早く胃ろうにした方が良いのでしょうか? - 口から食べることを重視する施設
現在の病院は積極的に胃ろうを推進する病院に見受けられます。極度に誤嚥性肺炎を恐れ、絶食にしています。摂食訓練中少しでもむせると痰を引き始めます。「食べる意欲が強いこと、入院後一度も誤嚥性肺炎を起こしていないこと、頑強であることを評価して誤嚥リスクはあるかもしれないが摂食訓練を進めてほしい」と面談で依頼しました。
しかしながら「一度でも誤嚥性肺炎を起こすとこれまで向上してきた嚥下機能が失われ、再び取り戻すことができなくなる」と説明を受けました。4/29にベッド角度30度でお茶ゼリー開始、5/8嚥下造影検査、5/15ミキサー食開始で、6/1現在もベッド角度30度でミキサー食の全介助です。
名古屋または近郊で口から食べることを重視する老健などの施設や訪問歯科医などをご存知ないでしょうか?病院には毎日朝から夕まで家族が付き添っております。担当言語聴覚士は次の施設で家族による摂食訓練を勧めています。
家族で摂食訓練可能なものなら次の施設ではなく今ここで言語聴覚士に教えを乞いながら行いたいと考えています。こうしたことは一般的なものなのか、一般的ではなくても主治医に許可をもらう良い手段などございましたらご教示いただければ幸いです。
急性期病院、回復期病院ともに誤嚥リスクが少しでもあるなら絶食にするというのを見てきました。少しでも早く父に口から食べる力を取り戻してもらうのが家族の願いです。
お忙しいところ恐縮ですが、どんな些細なことでも結構ですのでお知恵をお借りできましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
会の一瀬先生からすぐに回答をいただきました。温かく思いやりのあふれるメールに涙がこぼれました。
言語聴覚士など専門の職種がいても、食べる支援が進まないのが今の医療の現状です。同じ医療者として申し訳なく思います。
食べる訓練のためには、経鼻胃管ではない方が良いですが、経口摂取の訓練をしなければ意味がありません。病院での訓練は全く進んでいない様ですが、郁太様が記録していただいたチャートからは口や喉の機能は改善傾向にありますし、誤嚥性肺炎の既往はなく、本人の食べたい意欲もあり、積極的な訓練を行うべきと思います。
ただ、現状の病院では食べる支援の協力は得られないように思いますし、退院への期間が限られておりますので、次の施設へのためにというようであれば、胃ろうも選択のひとつと思います。
実際、老健の様な介護福祉施設で積極的に食べる支援をしているところは少なく、申し訳ありませんが、私も思い当たる施設がありません。問い合わせる際に、現状を伝え、リハビリに協力してくれるところを探すことになってしまうと思います。
言語聴覚士がおり、積極的にリハビリする施設であれば、非常に良いですが、場合によっては言語聴覚士がいる施設は、食べるリハビリが言語聴覚士任せになってしまい、言語聴覚士も責任をひとりで背負うかたちになり、攻めのリハビリは行いにくい環境になっていることがあります。
食べる支援は言語聴覚士がいなければできないわけではありませんし、私の経験上、看護師や介護職が協力的な施設の方が、食べる支援だけでなく、その人の食べるを含めた生活をサポートしてくれるように思います。
食べるための支援として、スタッフの協力だけでなく、食事形態の選択肢が多いところも重要かと思います。嚥下に配慮された食事(えんげ食やソフト食と呼ばれ、ミキサー食をゲル化剤で固め飲み込みやすくした食事)を提供している施設は嚥下に力を入れている可能性はあります。現在ミキサー食のようですが、ミキサー食からステップアップするにも、食事形態が多い方がステップアップしやすいです。
嚥下を積極的に行なってくれる訪問歯科やドクターも心当たりがなく、申し訳ありません。食べる支援に理解のある施設で、許可が得られれば、家族様による支援が一番良いと思います。病院や施設の協力が得られれば、私が同行させていただくことも可能です。
保険での診療は半径16kmとなっておりますので、保険での診療はできないかたちになりますが、私にできることであれば協力させていただきたいと思います。
あい訪問歯科クリニック
歯科医師 一瀬浩隆引用:一瀬先生からの回答
一瀬先生の名前に見覚えがありました。
名古屋に食べることを重視する歯医者がいないか調べていた時に、ドクターズ・ファイルの一瀬先生の記事を読んで強く心に残っていました。こんな方が名古屋にいたらどんなに良かったことかと残念に思いました。
一瀬 浩隆院長の独自取材記事(あい訪問歯科クリニック)|ドクターズ・ファイル
第三者で食べることを重視する医療者、しかも以前より知っていた一瀬先生直々の回答に大変勇気付けられました。
そして2つの決意をしました。
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